みなさまこんにちは、鋳物たんぞうです。
今回は洋風便器の壁排水において、重要な寸法である排水芯に関してご紹介致します。
設備、リフォーム関連に従事される方々なら、Pトラップのトイレの排水芯は155か120、100の認識はあるかもしれません。
しかしながら、いざ現場に行くとどこの寸法を測れば良いのか戸惑います。
そもそも155ってどの寸法なのか、排水芯155の詳細のご理解が深まれば幸いです。
早速ですが、
壁排水トイレの排水芯155とは、
洗い落とし式洋風トイレにおいて、便器の排水口から10度の勾配がかかり、
左右へ排水する為、接続される排水管(ベント管)芯の床(FL)からの高さ。
サイホン式洋風トイレの場合は便器排水口から接続配管芯のFLからの高さ。
ちょっと何言ってんのか分からないですね
- 排水芯155の歴史的背景
- 建築資材(住宅設備機器含む)はJIS記号・国土交通省記号がベースに派生
洋風便器の壁排水に関して、上記ポイントより印象に残るようにご説明いたします。
本記事はメーカー情報発信サイト:TOTO/コメット、LIXIL/いいナビより製品資料を活用し作成しております。
排水芯155の成り立ち/壁排水トイレの普及は団地から
日本の住宅設備の黎明期を構築したのは、日本住宅公団の公営住宅、いわゆる団地です。
高度経済成長の中、住宅不足を解消しよりよい暮らしを提供する為に団地は建設されました。
内風呂(銭湯に行かないでおうちでTake a bath)、水洗トイレ、三種の神器・・
今ではごく普通の設備、家電ですが、団塊の世代の子育て期とも重なり、団地は大きな市場であり
その後の集合住宅建築への展開の橋頭堡となりました。
国費を投じての住宅建設の為、健全な建築、膨大な需要に対応できる生産体制の必要性から、使用する資材への統一した規格が必要でした。
トイレに関していえば、それまで団地のような高層住宅は皆無です。
戸建て用なら床排水で問題ないのですが、住居面積も狭い団地においては壁排水(Pトラップ)のトイレの必要性がありました。
○○ニュータウンといった団地(高層集合住宅)の成功をベースに、民間のマンション建設へと展開されました。
すなわち、トイレの壁排水は団地建設でのノウハウを起点にその仕様が展開された歴史です。
【団地トイレの参考画像】
- トイレ室内は奥行き1mもない狭小スペース
- 隅付きトイレ
- 排水管は立管がトイレ室内に走り、トイレからはベント管で接続(壁排水)
墨付きトイレ排水芯155
公団の旺盛な需要に供給されたTOTO(当時の東洋陶器)の隅付きトイレ参考図面(C14P)です。
当時のJISの規格です。
品名 | JIS記号 | 東陶品番 | 伊那品番 |
洋風床上排水洗落し便器 | VC730 | C14P | C-11 |
JISの規格に準じて設計された製品が採用されております。
では、トイレではメインであったTOTO/C14Pの承認図面を確認しましょう。
排水管の箇所に155の記載があります。
ここでモヤモヤが発生します。155ってどの位置を図示してるの?
では、トイレ本体の承認図面を確認しましょう
排水口の位置は170じゃあないか
【C14Pトイレ図面】
ここで冒頭に記述しました意味不明の
洗い落とし式洋風トイレにおいて、トイレの排水口から10度の勾配がかかり、
接続される横引き排水管(ベント管)芯の床(FL)からの高さ。
が、少しピンとくるのではないでしょうか。
集合住宅は賃貸需要がメインで展開されました。
建設コストからも高級商材のニーズは乏しく、トイレの仕様は「洗い落とし式」一択でした。
「洗い落とし式」は戸建て住宅の基本仕様と同様に、トイレ洗浄時の流水の勢いで流しきります。
戸建て仕様の床排水(Sトラップ)であれば下方向(垂直)への排水が確実ですが、
集合住宅の壁排水においては一旦は水平方向へ排水される為、洗浄水の勢いを阻害しない為の勾配が必要となります。
その勾配が便器の排水口から10度かかっている仕様です。
便器の口から勾配が10度かかり、ベンド管を経由し水平方向(横引き管)へ接続される位置(配管の芯)が155です。
- 狭小のトイレスペースでトイレ室内の排水立管が走る
- 立管へ壁排水の洗い落とし式トイレを接続する為、90度のベンド管を横にふり排水接続
- 洗い落とし式便器は便器排水口(170)から10度の勾配が必要
- 便器からの10度の勾配がかかり、ベンド管と接続する配管の芯の基準高さが155
ここから排水芯155の基準が発生しました。
隅付きトイレから蜜結トイレへ/後方排水(後ろ壁FLから148)の出現
公団の団地が公営住宅、賃貸集合住宅のモデルを構築し、その後各自治体の公営住宅(県住、市住)民間の賃貸集合へと展開されます。
住宅設備の仕様も順次発展します。
トイレ室内も広くなり排水管はトイレ内の立管からパイプシャフトスペースに集合され、トイレも隅付きトイレから現在の蜜結洋風トイレへ更新されました。
では、洗い落とし式蜜結トイレの壁排水において抑えなければならない、
後方排水に関してご説明致します。
JISの規格に準じて設計されているので、仕様は共通である認識です。
品名 | JIS記号 | TOTO品番 | INAX品番 |
洋風タンク密結床上排水洗落とし便器 | C1201R | C730P | C-18PU |
先回同様に、図面から確認致します。
ここでは、洗い落とし式便器の代表製品でもある、
TOTO/C730PとINAX/C-18PUを参考例にご説明致します。
それぞれの承認図面の確認です。
ここで、洗い落とし便器を左右に排水する155とは違い148の数値が出てきます。
排水管に10度の勾配がかかり、後方の壁を貫通する位置の配管芯のFLからの高さが148です。
では、便器の排水口の高さはどうでしょうか
便器排水口部は墨付きトイレと同様に、洗い落とし式の場合はFLから170です。
洋風蜜結トイレを左右に排水する場合は排水芯155
洋風蜜結トイレの壁排水を左右に排水するする場合は、隅付きトイレで上述したように
排水芯は155で表記します。
便器にタンクを直接のせている構造上、限られたスペースで配管を左右に振るには
90度曲がりのベント管が必要となります。
便器からの10度の勾配が90度に左右に曲がる配管芯の位置(FLより155)を基準にとらえております。
「洗い落とし式」洋風便器(壁排水)/排水芯 まとめ
床排水の排水芯と違い、壁排水の排水芯155がピンとこないのは、便器の排水口から10度の勾配がかかり90度のベント管が曲がる配管の芯を基準にしているからです。
実際の建築現場では、設計通りの寸法に仕込むことは困難です。
FLからどの位置を155と計測するかは非常に曖昧です。
しかしながら、トイレの仕様は歴史的にJISの規格に準じて設計されております。
壁排水のトイレに関しては、既設の8割は洗い落とし式洋風便器の認識です。
それらはJISの規格に準じる一般洋風便器というカテゴリーですので、抑えるポイントを把握していれば規格は同じなのです。
- 洗い落とし式洋風便器の壁排水は10度の勾配が必要
- 排水管の経は75
- 洗い落とし式洋風便器の壁排水芯155とは、左右に排水の場合の排水管のFLからの配管芯の高さ
- 洗い落とし式洋風便器の壁排水で、後方に排水する場合はFLから後ろ壁の配管芯の高さは148
現場で確認する際のポイント
排水芯155はあくまで基準寸法で配管の呼び経のようなものです。
洗い落とし式の場合は便器からの勾配を確認するイメージです。
- 便器の排水口部の高さを測る→170です。
- 後方排水なら後ろ壁での配管芯を測る→148です。
- 左右に排水の場合、配管の芯を測る→155です。
サイホン式便器の普及/排水芯120・100・155
集合住宅も賃貸需要から分譲マンションへ市場が拡大し、
洋風トイレも普及品から高付加価値品へラインナップが充実していきます。
水の流れる勢いで洗浄していた「洗い落とし式」から、高級グレード品として「サイホン式」のトイレが展開されます。
壁排水のトイレを把握するには、「洗い落とし式」と「サイホン式」の相違点を理解する必要があります。
サイホン式トイレとは
- トイレ洗浄時の水位の高低差を利用しサイホン作用を発生させる
- 便器内排水経路に絞りがあり、洗浄時に鉢内の水位上昇(高くなる)→サイホン発生
- サイホン作用の吸引力で低い位置の配管へトイレ鉢内の水が引き抜かれるイメージ
- 便器の鉢サイズの大型化
- トイレ鉢内の留水面が広い
- 汚物の付着を防ぐ
- トイレ内の洗浄水が、かたまりのように吸引される排水性能
サイホン作用を発生させる為に、一回の洗浄レバーの操作で一定量の水量の確保が必要です。
「洗い落とし式」は大洗浄は規定量が流れる設計ですが、小洗浄はレバーをホールドし任意の洗浄水量で洗浄する事が出来ます。
サイホン式は便器に複雑な構造が必要です。洗浄終わりにゴボゴボといった音の発生や、細かい汚物、ペーパーの戻り、留水面が広い事は良いが、留水面が高いと男性小用時の飛沫の飛散などのデメリットもあります。
昨今ではトイレの節水化により下火になっている状況です。
サイホン式壁排水トイレの排水芯
「洗い落とし式」とは排水の方式が違うので、壁排水の際も違った仕様となります。
「サイホン式」は便器内でサイホン作用を発生させる構造となっている為、「洗い落とし式」と違い
配管に10度の勾配をつける必要がありません。
すなわち、便器以降は直管(ストレート)で抜いていきます。
また、「サイホン式」は繊細な排水方式なので、本来なら便器以降は小曲のエルボで曲げる事はNGです。
大曲がりのエルボであれば問題ないかもしれませんが、狭いトイレ内では現実的ではありません。
よってメーカーの承認図面では「サイホン式」で左右に配管を振った図面は基本ありません。
後方排水ストレートが基本です。
そして、排水の高さですが「サイホン式」は水位の高低差が必要で、どうしても低い位置で排水を抜いていく必要性があります。
そこで登場する排水芯が120、100、155です。
市場メインの排水芯は120です。100、155はレアものの認識です。
サイホン式壁排水トイレ排水芯120
それでは、市場メインであるサイホン式壁排水トイレ/排水芯120の主要製品を
承認図面をもとに確認致します。
それぞれの承認図面の確認です。排水芯は120の記載です。
では、便器の詳細図面の確認です。「洗い落とし式」と違い勾配はありません。
便器の排水口(高さ120)からストレートに後方へ排水します。
サイホン式壁排水トイレ排水芯100
市場占有率は低いですが、排水芯100のサイホン式トイレの承認図面を確認致します。
排水芯100タイプでは、TOTO/Ⅽ720Pはおさえておく必要性があります。
排水芯100に関しては、サイホンを発生させる高低差の確保の為、ギリギリのラインを攻めた印象です。
しかしながら、集合住宅での配管の仕込みは難しいのですよ。
75の各種配管(耐火2層管など)で排水芯100で仕込むのは少しタイトすぎました。
80年代半ばで終息しました。
サイホン式壁排水トイレ排水芯155
壁排水サイホン式トイレ排水芯の迷走期です。排水芯100が低すぎるなら、洗い落とし式と同じ155でどうよ。
しかしながら、水位の高低差が必要なサイホン式トイレにおいて今度は便器側がタイトすぎました。
90年初頭には終息しました。
サイホン便器排水芯155タイプでは、TOTO/Ⅽ721Pはおさえておく必要性があります。
外観はⅭ720Pとほぼ同じなので要注意です。
排水芯100・155の迷走を経て現在の120に着地します。
「サイホン式」洋風便器(壁排水)/排水芯 まとめ
「洗い落とし式」と違い「サイホン式」はサイホンの発生が必要となるため、壁排水トイレにおいては排水の仕様が違います。
この相違と「サイホン式」トイレの歴史背景を抑えるとより理解が深まります。
- 排水管にサイホン作用の妨げとなる勾配は不要。便器排水口と排水管の高さは同じ。
- ストレート後方排水が基本。
- メインの排水芯は120。レアもので100、155が存在。
- 排水管の経は75
「サイホン式」はトイレを初見、洗浄確認で即判別できます。
- 留水面大きい(大型便器)、洗浄するとゴボゴボサイホンの吸引音→サイホン便器です。
- 便器の排水口部ー排水管の高さ確認→同じです。
- 排水芯は3パターン→120・100・155です。
壁排水トイレの排水芯155とは まとめ
- 「洗い落とし式」と「サイホン式」の2パターンで把握する。
- 「洗い落とし式」は便器排水口高さ170から10度の勾配がかかる。
- 「洗い落とし式」左右に排水では、ベント管が曲がる芯の高さが155
- 「洗い落とし式」後方排水では、10度の勾配から後方壁を貫通する配管高さが148
- 「サイホン式」は勾配はなく、便器排水口と排水管の高さは同じ
- 「サイホン式」は歴史的に100・155・120の3パターンが存在。メインは120。
また、トイレの洗浄方式で「セミサイホン式、」や「ネオボルテックス式」など、メーカーが各仕様を設定しておりますが基本構造は洗い落とし式です。
壁排水場合は便器排水口の高さが170で勾配がかかっている場合は「洗い落とし式」の認識です。
ご参考までに壁排水トイレの排水芯一覧資料添付致します。
床排水と違い、とらえどころが難しいイメージの壁排水トイレの仕様ですが、
仕様は至ってシンプルです。
集合住宅の壁排水トイレの配管には防火区分に該当するケースもあります。
既設の耐火2層管などの排水管を不用意に変更しない為にも、既設の仕様を把握しスムーズに業務が進められるようご活用いただければ幸いです。
ご拝読ありがとうございました。
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